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海面の上昇

 地球表面の大気や海洋の平均温度は、近年の温室効果ガスの増加により長期的に上昇傾向が続いています。それにつれ、海水の熱膨張や南極大陸などにある氷床の融解などにより平均海水面が上昇しつつあります。

近年の観測によれば、1900年から2000年までの100年間に平均海水面は約20cmほど上昇したということです。今後人口の多い中進国などでエネルギー消費が急増するため、この海面の上昇傾向は加速すると考えられており、2000年からの100年間では平均海水面は1m近く上昇すると予測する研究発表も行われました。

海抜が低い地域での影響

ツバル  上記の海面上昇は世界各国の生活・経済に影響を及ぼしますが、とりわけ南洋諸島など海抜が低い地域はすでに大きなダメージを受けています。

左図は南太平洋オセアニア地域の地図です。地図右端上部にあるツヴァル共和国、キリバス共和国は、ともに主としてさんご礁の砂と岩でできたいくつかの小島からなっています。

それらの小島はいずれも海抜が低く、キリバスの諸島はなんと海抜が2、3mのところが多いそうです。ツヴァル共和国は8つの島からなっていますが、それらの最高海抜は5mで、大部分の地域は海抜が3m以下の低地ということです。

ツバル  たとえていえば、これらの島々では日本の海浜によくある「海の家」の屋根より低い土地に大多数の国民が暮らしていることになります。

近年の海面上昇により、それらの島々ではすでに海岸線が侵食されつつあり、海岸近くの住居が水没したり海岸に生えていた椰子の木の根がえぐられて倒れるなど深刻な事態になっています。

また地球温暖化により巨大な台風が頻発するようになり、それらによる波浪被害も大きくなりました。海面の平均レベルが次第に上昇し、さらに台風などの波浪も年々大きくなるとあっては、それら標高の低い島々では暮らしていけなくなります。

海面上昇の傾向は200年以上前から始まり、近年にいたってその上昇ペースが加速しつつあります。この海面上昇は、今後少なくとも数百年は続くと覚悟しなければならないでしょう。世界の国々でCO2の放出削減に努力するというくらいの対策では、実際には海面上昇のペースを下げるにはほとんど効果がないと思われます。

全国民の移住

 キリバス共和国は、前記のように標高が数mという島々からなっており、人口は全部あわせると10万人あまりだそうです。そのキリバスはついに現在の島々で暮らすのをあきらめて、フィジー共和国など他国の了承のもとにその国の土地を買い求め、国民全員を移住させるのを決めました。

まず、キリスト教団体の仲介により南方に2000km近くも離れたフィジー共和国の土地6000エーカー(24平方km)を約7億円で購入しました。しかし、それだけでは10万人の国民全部を移住させるには不足なので、ニュージーランドやオーストラリアなど他の国々にもキリバス国民の移住を認めてくれるように交渉しているということです。

キリバス共和国のすぐ近くにあるツバル共和国も、もはや現在の場所には居住不可能になると考え、30年ほどの間に全国民9600人を国外へ移住させることを決めました。
まず、オーストラリアとニュージーランドに国民を環境難民として受け入れてほしいと要請しましたが、オーストラリアからは拒絶されたということです。

一方ニュージーランド政府からは2001年に労働移民として毎年75人を受け入れるという回答が得られました。現在その他の国々にもツバル国民の移住を認めてくれるように交渉中とのことです。

先進国の責任

 地球温暖化、海面上昇は、数世紀来の温室効果ガスの増加によるものというのが定説になっています。CO2など温室効果ガスは、ここ数世紀の間に工業が盛んになった先進諸国が大気中に放出したものが大部分を占めています。

上記キリバス共和国、ツバル共和国など現在海面上昇に苦しんでいる諸国にしてみれば、自分ではほとんどCO2などを放出していないのに先進諸国が出した大量のCO2のために国を捨てなければならなくなったと思うことでしょう。

2002年には、ツバル共和国はキリバス共和国、モルディブ共和国とともに温室効果ガスの削減に関する京都議定書を批准していないアメリカとオーストラリアを国際司法裁判所に提訴すると表明しました(これは諸般の事情により実行されませんでした)。

やはり、日本を含めて先進諸国は、近世以来これまでに排出してきたCO2の総量に見合うだけの貢献を、今後世界の温室効果ガスを削減するために行うべきだと思います。
国土面積が広い国は、ツバル共和国、キリバス共和国などの国民の移住を受け入れる方策を真剣に検討してほしいものです。日本は残念ながら国土が狭いので難民の受け入れはやや困難ですが、移住費用の負担、船便の提供などで貢献できると思われます。

キリバス共和国などでは、将来の国民移住の際に移住先での生活を安定させるため、移住者を熟練労働者に仕立ててから送り込む方針ということです。
そのような移住予定者をまず日本で受け入れて技能研修をしてもらい、その後日本で研修労働者として数年間雇用して技能レベルを向上させるというのはいかかでしょうか。

オランダ王国では

 海面上昇におびえるのは、南洋の島国だけではありません。ヨーロッパで標高が低い国といえば、だれでも北海に面したオランダ王国を思い浮かべるでしょう。

オランダ地図 オランダは、ライン川、マース川などの大河が北海に注ぐところにできた堆積地が国土の中心になっています。
首都アムステルダムはアムステル川の河口に水門を設けて建設された都市で、平均海抜はわずか2mだそうです。

経済の中心地ロッテルダムはヨーロッパ中部の大河ライン川の河口に形成された港湾都市で、北海に面した地区は大部分がゼロメートル地帯だそうです。

左図の地図を見るとオランダの北海に面した海岸線が複雑に入り組んでおり、オランダが北海と大河がせめぎあう危うい均衡地帯にあるのがわかります。

オランダの堤防・水門

 アムステルダム、ロッテルダムの「ダム」というのは、オランダ語で水門、ダムを意味します。オランダの海岸にある主要都市は、水門によって北海の侵攻からかろうじて守られているのです。このように標高が低い国土を水害から守るのは、オランダにとって昔から国家存亡にかかわる大事業となりました。

ロッテルダム 大河ライン川の河口にあるロッテルダムやゼーラントでは、昔からライン川筋に北海の海水が流入することによる広域水害が繰り返し起こっていました。

1953年には北海からきた嵐によりこの地域のダムが延長500kmにわたって破壊され、1835人の犠牲者が出ました。

そこで政府は海面が上昇した際にライン川の河口を締め切る巨大な可動水門の建設に着手し、1997年に完成させました。

この水門は常時はライン川河口の両側に別れて置かれていますが、河口付近の海面が上昇したときには河口の両側からライン川中央部に向かって押し出されます。

そしてライン川中央部で両側からの水門は接続され、ライン川の流れを北海から完全に遮断します(上の写真)。ライン川は河口の少し上流で放水路を設けて河口から北海に流れ込む水量を減らしていますが、それにしても中部ヨーロッパを1200kmあまりに渡って流れてきた大河を河口で締め切るというのはとてつもない大事業です。
長年の懸案であったその大事業を万難を排して遂行したことから、オランダが必死になって海面上昇に対処した様子がうかがえます。

海上都市ヴェネツィア

 現在世界的な観光スポットになっているヴェネツィアは、イタリア半島の東の付け根、アドリア海の干潟を埋め立てた土地に建設した海上都市です。ヴェネツィア本島は面積5.17km2で、東京都23区の中でもっとも面積が小さい中央区の半分ほどにあたります。その狭い島に中央区の人口の倍に当たる26万人が住んでいます。

ヴェネチア 東ローマ帝国の時代から、この干潟に松の杭を打ち込んで作った土台の上に建物を建築し、次第に町が大きくなりました。

ヴェネツィア本島の平均海抜はわずか1.9mしかなく、特にヴェネツィアの観光名所サンマルコ広場のあたりは海抜は80cmほどという低さだそうです。

アドリア海のもっとも奥にあるヴェネツィアは、毎年冬になるとアフリカから吹き付ける季節風により海の水位が高まります。
その強い季節風と低気圧、大潮などが運悪く重なると海面は1mも上昇することになり、海岸や運河筋の低い土地では浸水の恐れが出てきます。

そのような高潮を、ヴェネツィアでは「アクアアルタ」と呼びます。アクアアルタがおこると、ヴェネツィアの観光名所サンマルコ広場は完全に海水に覆われる状態になり、観光客はお目当ての広場に入れなくなります。

このように高潮の被害が大きくなったのは、地球温暖化など気候の変化だけが原因ではなく、ヴェネツィア市の人口増加などにより地下水を大量にくみ上げた結果地盤が沈下したせいでもあるといわれます。

モーゼ計画

ヴェネチア  今後ヴェネツィアで高潮の被害がさらに大きくなると考えられることから、イタリア政府はついに 「モーゼ計画」 と呼ばれる防潮プロジェクトを開始しました。

上図の地図を見ると、ヴェネツィア本島の海側に細長い小さな島がいくつかあるのがわかります。それらの島々の間を締め切る大防潮堤を建設しようというものです。

計画では、上記島々の間3ヶ所に上の写真のようなゴム製の可動式防潮堤を78基設置することになっています。それら防潮堤の総延長は約1.5mに達するそうです。

防潮堤の近くの海面水位が1.1mを超えると予測されると、ゴム製のフラップに空気を注入し、フラップを海面上に立ち上げて海水の侵入を防ぎます。
その後、海面水位が低下すれば、フラップから空気を放出し、フラップを海面下に沈めて海水を自由に流入させます。この可動式防潮堤により、ヴェネツィア本島を最大2mの高潮から防ぐことができるということです。

マンハッタンの立地

 アメリカ合衆国東海岸の中心地マンハッタンは、下の地図に見られるように、延長が507kmもある大河ハドソン川が大西洋に注ぐ河口の近くに形成された中州です。
マンハッタン島の最南部はウォール街とよばれる世界の金融・経済のセンターになっていますが、そのあたりの地区で近年しばしば高潮の被害が発生しています。

マンハッタン 地図に見られるようにマンハッタン島の西側はハドソン川が流れています。島の東側にはイーストリヴァーという運河があり、その先は大西洋につながっています。
ウォール街のある島最南部の先はハドソン川の河口で、その先はやはり大西洋です。島最南部にある広大な公園バッテリーパークは、そのウォール街にビルや地下鉄を建設したときに出た土砂で浅瀬を埋め立てたもので、そのあたりの平均海抜はわずか1mほどしかありません。
下の写真はマンハッタン島南側上空から撮影したものですが、世界の金融センターなるものがいかに心細い立地にあるのかがよくわかります。

マンハッタン島最南部

マンハッタンの高潮
 海洋学者によると、世界各地の海面の高さは海流の影響などで24cmの差があり、アメリカ合衆国東海岸では現在でもたの地域に比べて海面が高いそうです。
その影響もあってか、ニューヨーク、ワシントンD.C、ボストン、ボルチモアなどアメリカ東部主要都市で今後高潮の被害がしばしば発生する恐れがあるということです。

マンハッタンの高潮 ハリケーン・サンディは、カリブ海で発生し、2012年10月末にアメリカ東海岸沿いに北上しました。それにより、ニューヨーク州、ニュージャージー州の沿岸部では4m近い高潮が起こりました。
左の写真はそのときのマンハッタン南部の様子で、ウォール街の一部では1m以上も冠水し、道路上で立ち往生した自動車が水で流されたということです。

マンハッタン南部には地下鉄が多数通っていますが、その地下鉄の線路にも高潮の水が流入し、この地域の交通はまったくマヒしました。
また、多くのビルでは配電設備や電話交換設備が地下のフロアに置かれていたため、浸水に直撃されてビルの機能が完全にストップすることになりました。

海の侵攻は世界中で

 先にツヴァル、キリバスなど南海の島国での海面上昇の脅威について述べましたが、それをはるかに上回るのがインド洋に面したバングラデシュの低海抜地域の現状です。
バングラデシュの国土は、インド亜大陸のベンガル湾沿いに形成されたガンジス川などのデルタが大部分を占めています。その低海抜地域は肥沃で稲作に適していることから人口密度が高く、何千万もの人々が海面すれすれの水田地帯に暮らしています。

近年地球温暖化によりインド洋では巨大なサイクロンが盛んに発生するようになりましたが、バングラデシュの低海抜地域はそれらの直撃を受け、毎年多数の人々が高波や洪水で生命を奪われる状況が続いています。

また、ロシア共和国第二の都市サンクトペテルブルグは、上記イタリアのヴェネツィアと同様に、ネヴァ河がバルト海に注ぐ河口の沼地に松の杭を多数打ち込み、その上を岩で埋め立てて造成した基盤に建設されました。

18世紀の開都以来、サンクトペテルブルグは何度となく大洪水、高潮にあってきましたが、ここでも近年の海面上昇により水害の脅威が非常に大きくなりました。そこで、サンクトペテルブルグでもヴェネツィアのモーゼ計画と同じように近くにある島との間を締め切る大規模防潮堤を建設しつつあるということです。

それでは、私どもが暮らすこの日本では海面上昇の影響はいかがでしょうか。実は東京や大阪にも標高がゼロメートルよりも低く、高潮により浸水する可能性 がある地域がいくつもあります。大海の侵攻は日本でも今後大きな災害をもたらす恐れがあります。
それに加えて日本では巨大地震による津波が常に脅威になっています。さらに、近年地球温暖化によって発生する 「スーパー台風」 が日本近辺まで襲来するようになったのも、私どもにとって大いに懸念されるところです。

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