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ストラディヴァリウス

ストラディバリウス  クラシック音楽に関心がある方なら、かならず「ストラディバリウス」という弦楽器の名前を耳にしたことがあるに違いありません。

ストラディヴァリウスとは、17世紀後半から18世紀前半にかけてイタリア北西部クレモナで活動した弦楽器製作者アントニオ・ストラディヴァリが手がけた弦楽器のことです。

ストラディヴァリは生涯に1116の楽器を製作したとされ、それらのうち約600の楽器が現存しているということです。

当時は弦楽器の製作の際に板厚にかなりのばらつきがありましたが、ストラディヴァリは独自の技術でそれを厳密に管理したということです。また、弦楽器の上端にあるヘッドスクロールによる音質の変化に注目し、ヘッドスクロールの製作方法を確立しました。

18世紀以降、ストラディバリウスの音色は多くの大演奏家たちによってたたえられ、クラシック音楽界の発展に寄与してきました。現在では、ストラディバリウスはその希少性もあってほとんど神話的な存在となり、演奏家たちのみならず、楽器収集家・美術品収集家たちにとっても憧れの的になっています。

グァルネリの弦楽器

グァルネリ  18世紀前半、クレモナには多くの弦楽器工房がありましたが、その主人の一人バルトロメオ・ジュゼッペ・アントーニオ・グァルネリは当時上記アントニオ・ストラディヴァリに並ぶ優れた弦楽器製作者といわれました。

バルトロメオ・グァルネリの作品グァルネリ・デル・ジェスはわずか200ほどしか現存していないとされます(左の写真)。
前記ストラディバリウスよりはるかに希少な楽器でもあり、昔から非常に人気が高く、ニコロ・パガニーニなど有名な演奏家によって使用されてきました。
また、ベートーベンの弦楽四重奏曲の演奏で有名なグァルネリ弦楽四重奏団は、この楽器の名前を冠しています。

弦楽器の音色としては、ストラディヴァリウスは高音成分が多めの華やかさを感じさせる音の楽器が多いといわれます。
一方グァルネリは、低音成分が多めの重厚な音色の楽器が多いということです。

古弦楽器の研究

 19世紀に入ると、市民層の芸術愛好者が増加して楽器のニーズが増したこともあり、弦楽器の研究が盛んになりました。当時弦楽器の頂点とされたストラディバリウスの構造は徹底的に研究され、「ストラド・モデル」と呼ばれるストラディバリウスをコピーした形式が弦楽器の代表的なデザインになりました。

また、ストラディバリウスに並ぶ優れた弦楽器とされたグァルネリについても多くの研究が行われ、それをコピーした弦楽器が多くの弦楽器工房によって製造されました。

現在の世界先進国の木工技術は、ストラディバリの時代とは比べ物にならないくらい進歩しています。それに基づいて、ストラディバリウス、グァルネリウスなど古楽器の構造の研究が長年月にわたって行われ、楽器の構造と音色との関係が解明されてきました。

また、楽器に使われる木板の材質の研究も行われ、さらには楽器の表面に塗布するニスの成分と音色との関係も詳しく研究されました。

コンピュータ断層撮影の利用

 コンピュータ断層撮影とは、X線などを利用して物体を透過走査し、得られたデータをコンピュータで処理することで物体の内部画像を構成する技術をいいます。この技術を利用して物体の内部を断層撮影する機器を、通常CTスキャナーと呼びます。

CTスキャナーは、1970年代から主に脳の断層撮影など医療分野で用いられるようになりました。その後、技術の進歩につれCTスキャナーは低価格化、小型化が進行し、医療以外のさまざまな分野でも利用されるようになりました。

1989年に、アメリカ・ミネソタ州の放射線科医でアマチュアヴァイオリニストのスティーヴン・サーという人が、日ごろ患者を診察するのに利用しているCTスキャナーに自分のヴァイオリンを置いてその構造をディジタルデータとして記録しました。

そのディジタルデータからヴァイオリン各部のサイズ、位置関係はもちろんのこと、各部分の重量、密度やそれらが接合されている状態までが精密に計測され、三次元画像として明確に表示されました。それらをもとに、ヴァイオリンの各部分がコンピュータ制御切削装置で正確に製作できるようになり、ヴァイオリンの精密な複製が可能になりました。

	CTスキャナー版コピー サー氏は、それに力を得てアメリカ議会図書館所蔵の "Betts" と呼ばれるストラディバリウスも同じように CTスキャナーにかけ、その構造をディジタルデータ化しました。そのデータをもとにアメリカの熟練したヴァイオリン職人が製作をして、 "Betts" の「CTスキャナー版コピー」を完成させました。
サー氏によると、そのようにして製作されたレプリカの音色はオリジナルの "Betts" の音に非常によく似ていたということです。

サー氏らは、ストラディバリウスに続いてグァルネリウスの "Ole Bull" と呼ばれる名器のCTスキャナー版コピーを完成させました。

聴き比べ実験

 前記のように、近年は楽器を製作するための木工技術はストラディバリの時代より大幅に進歩しました。ストラディバリウス、グァルネリウスなど古楽器の研究により、聴衆たちの感動を呼ぶ音色がどこから生まれるのかもかなりわかってきました。

さらに、上記のようにコンピュータ技術を利用することで、少なくとも構造の面では優れた古楽器とほとんど差のない楽器の製作も可能になりました。
それら、近作の楽器は専門の演奏家たちによって高く評価されて実際に演奏会やオーケストラで盛んに使われつつあるということです。

そうなると、当然ながら、昔から神話のように尊ばれてきたブランド古楽器とそれらの研究の結果生まれた近作楽器の音色を実際の演奏で聴き比べたくなります。

演奏会の聴衆は、演奏家がヴァイオリンを弾く音色を聴いてその良し悪しを評価します。仮に演奏家の技量があまりよくないとすれば、本来音色が優れているヴァイオリンを使っても聴衆にはその音色の差がわからないかも知れません。
逆に演奏家の技量が非常に優れていれば、「弘法筆を選ばず」で少々お粗末なヴァイオリンを使っても立派な演奏になるかも知れません。

従って、ヴァイオリンの音色を評価するには、その「音色の差がわかるくらい」の技量を持つ一人の演奏家によって、評価対象の複数のヴァイオリンを次々に演奏してもらう必要があります。できるならば、演奏家は一人ではなく、数人からなるグループで同じように評価対象の複数のヴァイオリンを演奏してもらうのがよいでしょう。

聴き比べ実験 近年、このようなブランド古楽器と近作楽器の聴き比べ実験が世界の各地で行われました。それらの一部は最近テレビで放映されたので、ご覧になった方も多いでしょう。

ヴァイオリンのソリスト、オーケストラの演奏者、音楽評論家など専門家による聴き比べでは、一口でいえば、ブランド古楽器の音色は近作楽器に比べて特に優れているとは感じられないとのことでした。

それら何回かの聴き比べ実験では、概して近作の高級ヴァイオリンの音色が高く評価されたということです。現代のヴァイオリンは、大ホールでの演奏に対応して豊かな音量が求められるといわれます。大ホールでの演奏会になれた現代の聴衆にとっては、近作のヴァイオリンの音色のほうがなじみがあるということかも知れません。

ある現代のヴァイオリン製作者の話では、価格200万円以上の近作高級ヴァイオリンの音色はブランド古楽器の音色に劣らないということです。
現在ストラディバリウス、グァルネリウスなどは2億円もの価格がつくそうなので、近作高級ヴァイオリンの200万円というのはそれらの1パーセントぐらいの価格になります。
あまりにも大きな価格差に驚くばかりです。

3Dプリンターの利用

3Dプリンター  最近、ストラディバリウスなどブランド古楽器について、また気になるニュースを目にしました。近年何かと話題になる「3Dプリンター」を利用してブランド古楽器のコピーを簡単に製作できるというのです。

3Dプリンターは、インクジェットプリンターと同じ原理でプラスティックなどの原材料を積み重ねることで、かなり複雑な三次元構造物を成形することができます。

左の写真はかなり高度な工業用3Dプリンターで、工業製品・部品の試作、建築模型の作成などに盛んに使われています。

3Dプリンター 前記のようにブランド古楽器をCTスキャナーにかけてその構造データをディジタル記録したら、それをもとに3Dプリンターで古楽器の精密なコピーを製作できます。

左の写真は、ドイツのさるヴェンチュア企業がその方法で製作したストラディバリウスのコピーだそうです。表板の f 字孔や表板と側板の接合部なども非常に精密にコピーされているのが見て取れます。

このニュースを見たとき、私は外形がストラディバリウスにそっくりのモックアップを作ったという話かと思いました。たしかに上の写真の成形品に適当なニスを塗れば、まさには300年前のブランド古楽器そのものに見えるはずです。

上の写真のヴァイオリンを3Dプリンターで製作した際は、3Dプリンターでよく使われる工業用ポリマーを原材料として利用したということです。
ヴァイオリンでは使用する木材の質は音色に非常に深く影響すると考えられており、高級ヴァイオリンでは通常念入りに吟味された木材を使用します。
今回の3Dプリンターでの製作では原材料として工業用ポリマーを使用したと知って、私はこれではとても音楽に使えるような音色は出ないだろうと思っていました。

ところがその後、たまたまテレビ放送で上記のようにして3Dプリンターでストラディバリウスからコピーされたヴァイオリンの演奏をしているのを目にしました。
その演奏は、屋外(野原)で短時間行われたものでしかも演奏家の技量があまりなかったのではっきりと評価できたわけではありませんが、私には3Dプリンターでコピーされたヴァイオリンの音色はなかなかのレベルのように感じられました。

21世紀のブランド楽器

 これまで何回となく行われてきたブランド古楽器の聴き比べ実験では、たいてい著名なヴァイオリニストが聴き比べ対象の楽器を演奏する役目をしてきました。
聴き比べ実験では、聴衆側は前記のようにブランド古楽器の音色は近作楽器に比べて特に優れているとは感じられないというレスポンスが多かったのですが、演奏者は演奏終了後に「ブランド古楽器の音色はやはりすばらしい」と述べた人が多かったそうです。

ヴァイオリニストは、手とあごで楽器を支え、演奏会場全体に響くほどの音量で楽器を演奏します。演奏中は、体全体が楽器の発する響きで揺さぶられることでしょう。
また、当然ながら演奏家は概して楽器の音色に対し聴衆より鋭い感覚を持っていると考えられます。聴き比べ実験でのレスポンスが聴衆側と演奏家では異なる結果になったのも、それらが影響したのかもしれません。

演奏家は、自分の能力がフルに発揮できると信じる楽器を大金を払って入手し、それを使って演奏会で聴衆に音楽を聴かせます。私ども聴衆は、その楽器の音色の上に演奏家の技量が重畳されてかもし出された音楽を聴き、音楽の至福を味わいます。
この構図は、音楽を愛する聴衆と演奏家が存在するかぎり、永遠に変わらないでしょう。

音楽界の将来のために、著名な演奏家の方々が優れた近作楽器の音色をためし、積極的にそれらを演奏会で使っていただければと願います。
そして楽器製作者の皆さんは、それら演奏家の意見を取り入れて21世紀のブランド楽器を製作し、100年先の音楽界に貢献してくださるようお願いいたします。

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